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2023.10.13
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大ヒット『ブルーロック Project :World Champion』のデータドリブンなゲーム運営の手法とは

2022年12月30日のリリース以来、500万ダウンロードを達成したスマートフォンゲーム『ブルーロック Project :World Champion(以下、ブルーロックPWC』。大ヒットの裏にあったのはデータサイエンスに基づくゲーム運営体制であった。 ここでは、2023年9月21日に幕張メッセで開催された『TOKYO GAME SHOW 2023』TGSフォーラム『The Future of Gaming on X』において行われた吉永辰哉氏(株式会社ルーデル 執行役員 ソーシャルゲーム事業本部 データサイエンス部部長)の講演内容を伝える。

大ヒットタイトル『ブルーロックPWC』を運営する上でのデータドリブンの重要性

大人気マンガ『ブルーロック』とのIPコラボであるスマートフォンゲーム『ブルーロックPWC』。2022年12月30日のリリース時点で50万人が事前登録。その後もユーザーを増やし、わずか9ヶ月で500万ダウンロードを達成した。

『ブルーロックPWC』はなぜここまでの大ヒットゲームとなったのか、そこには原作マンガの人気はもちろん、「攻めのマーケティング」と「データ分析を活用した施策」があったと吉永氏は振り返る。

「データドリブンの最初の一歩は『可視化』です。家計簿をつけるのと同じで、まずは現状を把握することが重要となります。弊社ではゲーム運営に必要なデータをあらゆる角度から集計・可視化し、その結果をリアルタイムにBIダッシュボードで確認できる環境を作っています。いつでもゲームプランナーがデータにアクセスできるようにすることで、全社的にデータを軸にしたゲーム運営を実現しています。売上や直接関連するKPIの可視化をはじめ、既存ユーザーの継続率や新規ユーザーと復帰ユーザーに分けたKPI、ゲーム内通貨の獲得と消費の状況やガチャの回転数、どんな商材が売れていて、キャラの使用率やアイテムの保有状況はどうなっているのかなど、項目を挙げればキリが無いのですが、かなり詳細にダッシュボードに可視化することで、データドリブン体制を作り上げています」(吉永氏)

データ分析でユーザーのトレンドを正しく理解する

加えて、吉永氏は以下のように語る。

「現状理解とともに、データ分析で重要となってくるのがユーザーのトレンドを理解することです。『ブルーロックPWC』のように原作がある場合、もともとの人気キャラクターが存在しますが、これがゲームとなると、必ずしも原作の人気キャラがゲーム内での人気キャラになるというわけではありません。ゲーム内でのステータスの強さが影響して、ゲーム内では別の人気ランキングが生まれます。それを理解するために必要になってくるのが、ユーザーのトレンドをリアルタイムで理解するためのデータ分析です。

ゲーム内でいちばん育成されているのはどのキャラクターなのか。『ブルーロックPWC』では、人気キャラクターが明確な場合は、そのキャラクターの獲得難易度を少し下げるなどして、ユーザーのプレイ体験を向上させる施策をとっています。例えば、「トレンドガチャ」というものを設計して、使用率の高いキャラクターしか排出されないガチャを設計したりします。こういった施策をいくつも実施することでユーサーの皆様の満足度をあげていくことができます。

ユーザーのトレンドを理解したら、次はあえてそれをユーザーに開示します。ゲーム内のお知らせやXのポストを介して、ユーザーに使用率の高いキャラクターを公開しています。まだゲームを始めたばかりのユーザーは、ゲーム内でのキャラクターの役割が分からない状態だと思いますので、”実は自分の持っているキャラクターは当たりだった”という気づきや、そもそもどんなキャラクターを使ったら良いかわからないというユーザーに向けてのヒントにもなり得ると考えています」(吉永氏)

ユーザーのトレンドをデータ分析するだけでなく、あえて公開する。そうすることでプレイ体験が向上し、継続してゲームを楽しんでもらえるようになる。吉永氏の話からは、データ分析がゲームを運営するうえで非常にいい循環を生み出していることが理解できる。

「ゲームに限らずですが、データ分析は事業運営における意思決定の精度を上げることができます。基本的な可視化や集計による要因分析だけでなく、機械学習モデルを活用した分析や、予測モデルによる売上やユーザー数予測を元にした予算策定など、幅広く役立てることができます。そのためにはデータサイエンティストと呼ばれる職種の方々が活躍できる環境があることが大切だと思います。一人のデータサイエンティストとして、データ分析がもっと当たり前に活用されるような世の中になってくれればいいなと感じています」(吉永氏)

さらにこの可視化をする際に、重要となってくるのは『ユーザーの分類』だという。

「データ分析をする際に、全体をひとまとまりとして見ると、ユーザーごとの個人差が見えにくくなり、細かな違いや傾向を確認できなくなってしまいます。そのため、ユーザー理解を深めるためにもいくつかの軸で分類し、傾向を分析する必要があります。

例えば、ユーザーを分類する手法に特定の指標を軸に10分割する『デシル分析』というものがあります。ユーザーを『課金額』という軸で分類する場合、特定の期間内の合計課金額順にユーザーを並び替え、上から順に10分割します。先頭10%のユーザーは課金額上位10%ということになります。この分類をした時、課金額上位20%のユーザーは売上の80%を占めることが分かっています。

これは弊社のタイトルに限った傾向ではありません。『パレートの法則(80:20の法則)』と呼ばれる法則から、あらゆる事象はこの割合に収束すると言われいます。この法則を前提とするのであれば、事業運営をする上で売上に課題がある場合は、課金額上位20%のユーザーを分析することで、売上の80%に関する課題を特定できる可能性があるということになります。このように、課題に対して的確な改善施策が打てるようにセグメントを切り、可視化や分析を行っています。

もちろん、売上だけに注力しているわけではなく、ユーザーのゲーム体験を向上させることは常に分析しています。例えば、ブルーロックPWCにおける重要なポイントの1つに『キャラクターの育成アイテム』があります。ブルーロックPWCは獲得したキャラクターを育成アイテムでレベル強化し、そのキャラクターをトレーニングすることで自分好みの選手を作り上げるというコンセプトのゲームです。ゲームの流れとして、『キャラクターを集める』→『育成素材を獲得する』→『強化する』→『より強いキャラクターを使用できる』という流れでゲームを進めていくことになるのですが、キャラクターを集めたにも関わらず、育成アイテムが不足していることにより、強化できない度合いのことを『育成余力』と表現しています。

通常、育成アイテムはゲームをプレイすることで獲得できるものではありますが、ゲーム内の状況次第では想定よりも不足することがあります。そこで、想定していた難易度から大きく外れていないかを確認するために、各ユーザーの育成余力をユーザーが持つキャラ1体ごとに計算することで、どの程度育成素材が不足しているかをリアルタイムに把握しています。このアイテムが全体的に不足しており、プレイすることで集められる水準を大幅に超えていることが分かった場合には、配布施策を打ち、適切な供給量に調整します。

このような課題に対して、個別のユーザーの声だけを聞いて対応したところ、実は部分的な課題だったということはよくあることだと思うので、いただいたご意見を一度仮説とした上で、改めてデータから全体の傾向であることを確認して適切な施策に落とし込むということが大切だと考えています」(吉永氏)

ユーザーの期待を超えた施策でトレンドイン

株式会社ルーデルには「どんなときでも攻め続ける。」という企業ビジョンがある。吉永氏は「『ブルーロックPWC』でもそのポリシーで攻めのマーケティングに取り組みました」と話す。すでに大人気マンガであるということにあぐらをかかず、例えばXを通じての告知では、常にトレンドインを目指すポストや施策を繰り返し、実際にそれを実現してきた。

「その結果、ローンチ前には期待値を最大限に高めて50万人以上のフォロワーを獲得するに至りました。そこには、インセンティブを設けてのフォローやリポストをユーザーから募り、Xでのトレンドインを果たすといった施策がありました。いわばユーザーと会話し、ユーザーが能動的にゲームをダウンロード、プレイするといった環境を整えていったといえます。

また、『ブルーロックPWC』がリリースされた2022年末は、FIFAワールドカップの開催とも重なっていました。『ブルーロックPWC』ではこの機会に合わせて日本代表の三笘薫選手とのコラボレーションを企画していました。ご存じの通り三笘選手は、大会本番では『三笘の1ミリ』と言われるプレーを始め大活躍。「これが『ブルーロックPWC』でも大きな追い風となりました」と吉永氏は明かす。

実在のサッカー選手とかけあわせた施策では、2023年5月に実施した元日本代表の本田圭佑氏とのコラボレーションも非常に大きな話題となった。

「本田さんとのコラボについては、Xのポストを見ても事前に予想していたという人はほとんどいなくて、多くのユーザーにサプライズとして受け止めてもらえました。あの本田さんがゲームの中にキャラクターとして登場するということで、このときも即トレンドインしました。こうした施策を打つことで、ユーザーの皆様のゲームに対する熱量が上がることを実感しました」(吉永氏)

Xとの共催で開かれた本イベント。ここでひとつ注目したいのが、『ブルーロックPWC』においてXの果たしている役割だ。本セッションで司会役を務めたXの中村優氏(Client Solutions,ゲーム業界担当 部長)は、「Xは人々が興味関心でつながる唯一無二のプラットフォームです」と語る。ゲーム業界との相性は抜群。「Xでいちばん多い投稿はゲームに関する会話です。2022年にはゲームについてのポストが13億回以上ありました」と中村氏は語る。

Xでゲームに関する投稿をしている人は2,700万人。これは同じく人気のK-POPに関するポスト数2億回、投稿者数600万人と比較しても圧倒的な数字だ。その膨大なポスト数や検索数から得られるデータはゲーム運営にも役立っている。またタイムラインテイクオーバー、トレンドテイクオーバーといった認知拡大に効果的な広告をはじめ多彩な機能があり、『ブルーロックPWC』でもそれらを利用したさまざまなキャンペーンを行なっている。

一例を挙げると、ライブ動画の配信などもそのひとつである。

「『ブルーロックPWC』が重要視しているもののひとつがライブ動画によるリアルタイムでの情報発信です。動画配信のメディアやSNSはいくつもありますが、いまこの瞬間に起きていることを見るという点ではXがいちばん相性がいい。ユーザーにはライブ配信中にポストもしてもらえるし、ゲーム内でプレイしてもらうことでどんどんその場が盛り上がっていく。こうした盛り上がりを生み出すという点でXはとても価値のあるメディアです」(中村氏)

Xのフォロワーが日々『ブルーロックPWC』についてどれだけ会話しているか。そのデータ分析もゲームを運営するうえで欠かせない。Xから提供されるデータを見て、ユーザーがポストしたくなるような話題(施策)を次々に提供していく。そうやって、常に熱量の高い場をつくっていくことでゲーム全体が盛り上がる。『ブルーロックPWC』はまさにその成功例といえるだろう。

「ゲームを運営する側としては、『ブルーロック』は企画段階の2022年12月時点ですでに1500万部以上を売り上げている大人気作品でしたから、ゲーム化にあたってはとにかく成功させなければいけないという強い思いで攻めのマーケティングとゲーム運営を進めました。その姿勢はローンチ前、ローンチ直後、そして現在に至るまで一貫しています」(吉永氏)

まとめ

原作の人気を最大限活かすために、詳細なデータ分析とそこから見出したロジックによって500万ユーザーを獲得した『ブルーロックPWC』。データサイエンティストという仕事の醍醐味を感じさせてくれる吉永氏の講演であった。

プロフィール

吉永辰哉  株式会社ルーデル 執行役員 ソーシャルゲーム事業本部 データサイエンス部 部長

データ基礎構築、データ分析、自然言語処理、画像解析などのデータサイエンス領域全般での活用支援を経験。マネジメント領域では組織組成と人材育成を含め、データサイエンスの仕組みを組織に定着させ、成果を上げることが強み。現在はルーデルのソーシャルゲーム事業で、データドリブンなゲーム運営の推進を担当。

中村優  Twitter Japan Client Solutions ゲーム業界担当 部長

中村氏は2015年にTwitter Japanに入社し、大手広告主向け営業組織にてClient PartnerとしてRetail業界を担当。2021年よりはGaming業界Teamの部長職として大手ゲーム広告主向き合いの営業組織を統括。Twitter Japan入社以前は、大学卒業後Web専業広告代理店にて広告営業、マネジメントを経験。


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EDITOR / HIROKI TAKAHASHI

1982年生まれ、金融経済新聞社にて編集記者として記事執筆やラジオNIKKEIでのマーケットアドバイザー業務などを経験。その後、コンサルティングファームにて経験を積んだのちに独立。2023年、レアゾンホールディングスにジョイン。

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