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2025.05.14

ThinkingData 0→1 Meetup 2025 Tokyo ~ルーデルならではのデータドリブン運営とは~

2025年4月24日、「ゲーム業界×データテック」をテーマとしたゲーム業界最大級のデータ・テックカンファレンス『01Meetup -2025 TOKYO-』がベルサール渋谷ファーストにて開催された。ゲーム業界関係者限定の本イベントは、ゲーム業界に関わる人々の交流の促進やゲームにおけるデータ・テック活用のノウハウの共有を目的としたものだ。当日行われたセッションにはゲーム業界の最前線で活躍する専門家が多数参加、貴重な知見を得られる場となった。株式会社ルーデルからは執行役員・CDAO(最高データ/アナリティクス責任者)・データサイエンス部長の吉永辰哉氏が登壇。ルーデルが取り組んでいるデータドリブンに基づいたゲーム運営やデータサイエンス領域でのAIの活用方法について講演した。

吉永 辰哉

よしなが たつや

株式会社ルーデル 執行役員/CDAO/ソーシャルゲーム事業本部 データサイエンス部長

ソーシャルゲームのデータ活用を推進し、収益最大化に貢献。ビッグデータ基盤の構築、ユーザー行動分析など幅広く担当し、データドリブンなゲーム運営を実践。ドメイン知識を活かした迅速な仮説検証と分析を強みとし、売上向上に直結する示唆を提供。意思決定の精度を高めるデータの仕組み作りにも注力し、ビジネス視点を持つデータサイエンティストの育成や、データ活用文化の定着を推進している。

メンバー10名中8名は新卒入社、少数精鋭のデータサイエンス部

累計1000万ダウンロードを達成した『ブルーロック Project: World Champion(以下:ブルーロックPWC)』をはじめ、『キングダム頂天』、『はじめの一歩 FIGHTING SOULS』、オリジナルタイトルの『ドラゴンエッグ』『三国ドライブ』などのソーシャルゲームの開発・運営を事業としているルーデル。吉永氏の率いるデータサイエンス部は、文字通りこうしたゲーム事業のデータサイエンス領域を一手に担っているセクションだ。

データサイエンス部の特徴は少数精鋭かつ若手中心であること。主たる仕事はデータ分析とAIの活用。2025年4月現在のメンバーは10名。内8名は新卒入社という非常に若いチームだ。

チームメンバー、とくに新卒の社員に求めるのは「データサイエンティストとしての素養」だ。ゲーム運営が業務であるルーデルの場合、データ分析の知識やそれに対する興味関心だけではなく、自社の製品であるゲームが好きかどうか、ゲームプランナーなど現場のメンバーと円滑にやりとりするためのコミュニケーション力などの「素養」が問われる。

「採用の際は、知識以上にそこを重視しています。仲間となったメンバーにはそのうえでデータサイエンティストとしての基本的なスキルを習得してもらうこととしています」(吉永氏)

基本的なスキルとは、具体的には、SQL(データベース言語)、BIダッシュボード作成、統計学、Python(プログラミング言語)、機械学習などの技術的知識を指す。

「このうちSQLとBIダッシュボード作成に関しては座学で技術研修のメニューを用意しています。新卒の社員でも入社後に部署内できっちりとイチからレクチャーしてスキルを身に付けてもらえる仕組みができています。SQLやBIダッシュボード作成以外のスキルもレクチャーすることは可能ですが、教わる本人が必要性を感じないとなかなか飲み込めないので、OJT研修や実際の実務で繰り返し経験しながら覚えてもらっていく形をとっています」(吉永氏)

統計学、Python、機械学習なども、同じように経験を積みながら学んでいく。新卒の社員の場合、まずは業務に触れて徐々にデータ分析の面白さを知ってもらう。そういう意味では習うよりも慣れよといったスタイルといえるかもしれない。吉永氏は「割と泥臭くやっています」と笑顔で語る。

ゲーム運営に欠かせないデータドリブンの発想

データサイエンス部が目標としているのは、ソーシャルゲームのデータドリブン運営だ。

「データドリブンの定義はデータによる意思決定。常にデータをもとに事業に関する意思決定していくことを指します」(吉永氏)

データドリブン運営を実現するには、まずデータを活用した意思決定プロセスを確立する必要がある。ルーデルではそのためにデータサイエンティストが意思決定に関与する方法として3つのパターンを用意している。

3つのパターンのうちのひとつは「統括パターン」。これはゲームタイトルの各ディレクターの上にデータサイエンティストのメンバーを置き、実質的に裁量や権限を持たせてゲーム運営をマネジメントしていくといった手法だ。

2つめは「承認パターン」。こちらはデータサイエンティストと現場のメンバーが相互に確認と承認をしながら業務を進めていくという手法で、具体的にはレベルデザインや新機能の仕様確認、施策提案、効果測定などを決める際にこうした方法が取られている。『ブルーロックPWC』では吉永氏もデータサイエンティストとして現場に加わり、データ分析をもとにレベルデザインやキャラクターの仕様を提案しているという。出した提案はゲームプランナーが形にし、具体的な形になったところで吉永氏が確認し、さらに微調整を加えたものを最終的に承認するといったプロセスとなっている。

「承認パターンだとデータサイエンティスト自身も現場に入って一緒にゲーム運営をしているような位置づけになります。その現場で自分がデータを見れば、自然と意思決定の中にデータが組み込まれていくので、結果としてデータドリブンな意思決定が実現できているといえます」(吉永氏)

3つめは「依頼パターン」。これはデータサイエンティストが現場のゲームプランナーから依頼を受けて集計対応や効果測定、提案をするといったものだ。データ分析の活用法としてはもっとも一般的なスタイルといえる。

このパターンは、依頼されたものに対応する受け身の動きが中心であるため、能動的に意思決定に関与できていないのでは?と思われるかもしれません。この問いに対し、吉永氏はこう回答する。

「依頼パターンの場合は、ゲームプランナーは最初からデータを参考にして何かを決めたいという気持ちを持っています。このような時、データサイエンティスト側は現場のサポートに回って裏方に徹することがベストです。そうすることで結果的には提出した分析データが意思決定に組み込まれていくことになります」(吉永氏)

「ゲームをやりこむ」データサイエンティストに必須のドメイン知識

データサイエンティストが意思決定に関与するために何がいちばん必要か。それがデータサイエンスの領域でよく耳にする「ドメイン知識」だ。

「ドメイン知識」とは、自社が扱っているサービスや事業に対する知識のこと。簡単に言うと、その人が事業やサービスをどれだけ理解しているかを示すバロメーターだ。ルーデルのデータサイエンス部ではこのドメイン知識を最重要視している。

「当社のようにゲーム運営を事業としているのなら、とにかくそのゲームをやりこむこと。それがドメイン知識となります。ゲームをやらずに数値だけ持ってきて提案や意見をしても、そもそもの仮説の精度が低いので、提案内容が的を得た内容となっていない事が多いです。逆にゲームをやりこんで誰よりも自分が詳しいというところにまで到達していれば、課題に対する仮説の精度が高いので、提案内容も現実的なものとなります。」(吉永氏)

ドメイン知識は言いかえると「圧倒的ユーザー目線」。吉永氏のチームではまず自分自身がゲームのユーザーとなり、ユーザー目線を獲得したうえで仮説を立て、分析をし、施策提案につなげていくことを徹底しているという。

データ分析で快適なゲーム環境と収益の最大化を実現する

ソーシャルゲーム運営に欠かせないデータ分析にはどんな種類の分析方法があるのか。この場で吉永氏が一例として挙げたのが「デシル分析」だ。

顧客分析手法のひとつであるデシル分析は、ユーザーを課金額順に10等分してその動きを分析する手法だ。多くのビジネスと同様に、ソーシャルゲームの売上も、その大部分を一部の熱心なユーザー層が占める傾向が一般的である。デシル分析を行うことで、例えばこの上位1デシル(上位10%)のユーザーが具体的に売上の何割程度を構成しているのか、そしてどのような動きを見せているのかを明確に把握することが可能となる。この詳細な分析結果に基づき的確な施策を打つことで、売上アップが期待できるのである。

デシル分析のようにユーザーを分ける分析手法には、ほかにも「RFM分析」といった手法がある。ゲームのユーザーの場合、やりこんでいるユーザーがいる一方で、課金が止まっていたり、一度は離脱したものの戻ってきたといった人がいたりと、さまざまなタイプのユーザーが存在する。

ではそうしたユーザーはどんなタイミングで離脱したり、あるいは戻ってきたりしているのだろうか。吉永氏のチームではそうしたデータを事細かく分析し、ダッシュボードで可視化することで現場と情報を共有し、効果的な施策へとつなげているという。

プロモーションに関する効果測定もデータドリブンに行っている。ここで重要な要素となるのがCPA(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)だ。CPAはわかりやすく言うと「広告費用」。1人のユーザーを獲得するのにどれだけプロモーションにお金がかかっているかを示す。つまり、CPAが低ければ低いほど効果的なプロモーションができている、ということになる。

LTVは、そのユーザーがどれだけゲーム内で課金をしてくれたかを示す数値だ。これらのデータはそれぞれ単独でも意味を持つが、比較してみるとより深い分析結果や知見を得ることが可能だ。

例えば、CPAは低いのにLTVが期待したように上がっていない場合、これは、プロモーションは効果的でダウンロード数は増えているのに離脱者が多いということを示す。この場合、問題があるのはプロモーションではなくゲームそのものではないかという仮説を立てることができる。

「ゲームには、シンプルに重いとか、最初の起動に時間がかかるとか、チュートリアルがわかりにくいとか、実際に自分がプレイしていないことには見落としがちな課題が意外と多く隠れていたりします。それをひとつひとつ新規ユーザー目線で確認して改善していくことで、LTVも向上していきます」(吉永氏)

データ分析基盤とデータ分析におけるAIの活用

データドリブンなゲーム運営を支えているのがデータ分析基盤だ。ルーデルの場合はGooglecloudが提供しているクラウド型のデータウェアハウスであるBigQueryをデータ分析基盤に採用している。

具体的なシステム構成としては、MySQL(Oracleが提供しているオープンソースのデータベース管理システム)に集めた本番データ(顧客情報データ)をデータ分析基盤(BigQuery)に転送し、ここで分析したデータをLooker Studio(Googleが提供している無料のビジネスインテリジェンスツール)でダッシュボードにして可視化、現場のゲームプランナーや事業関係者と分析結果を共有するといったシステムを採用している。

データ分析基盤は、AIの活用にも大きな役割を占めている。吉永氏は「AIについてはデータ分析基盤が整備してある会社とそうでない会社ではすごく差がつきます」と話す。

「AIの精度は学習データで決まります。よくプロンプト(AIを使うときにユーザーが入力する質問や指示文)によって精度が変わるといいますが、社内の業務をAIによって効率化する仕組みを作るためには学習データがAIが読み取りやすい形式で整備・蓄積されているかが大きな分かれ目になると思います」(吉永氏)

AIが急速に進化している現在、ルーデルでもAIを、イラスト生成、QAテスト、ゲーム運営、開発、CS、そしてデータ分析と、さまざまな場面で活用している。このうちデータ分析を担う吉永氏のチームが開発・活用しているのがGoogleのGeminiを用いた分析AIエージェントだ。

分析AIエージェントの仕事は、データの分析と報告、考察、施策の提案など。日々の売上や課金率、課金者数などの主要KPI、期間中に行った施策などのデータはすべて分析AIエージェントの元に集められ、メンバー間のやりとりに使っているSlack(ビジネス向けチャットツール)上に自動で報告されるシステムとなっている。また報告だけではなく、閲覧者が仮説を立てて質問した場合などにも、すぐにそれに紐づくデータを分析し、考察を返してくれる。ゲーム運営に関わる事業関係者はダッシュボードを見なくても、Slackを開けばすぐに全員が同じ情報を共有することができるという優れものだ。

「基本的なデータの分析はAIにお任せしています」という吉永氏。もちろん、そのためにはAIに正しい学習データを提供する必要がある。

「分析AIエージェントの学習データの整備でいちばん難しいことは、リリーススケジュールや仕様書を学習させることです。これがなければ、何をしてどう改善したのかといった施策と連動した分析ができなくなってしまいます。もともと本番データから転送しているゲームのログはAIが理解しやすいテーブル形式で整備できているものの、人が直接使用している業務フォーマットはそもそもAIに読み込ませることは考慮されていないです。そのため、まずはAIが読み取れる形式でデータ基盤に集積すること前提とした業務フォーマットに置き換えて、新しい業務フローを確立する必要があります。つまり現場の業務フローをAIに合わせて変える必要があり、それをデータサイエンティスト主導で進める必要があるということです。私たちのチームでもまさに今そこに取り組んでいるところです」(吉永氏)

AIと人間の協業で業務を深化させていく

AIがデータ分析から考察まで担ってくれる時代、ではこの先人間は何を為すべきなのか。

「うちのチームの場合はやはりドメイン知識、ゲームのやりこみですね。実際にゲームをプレイしていて感じる人間特有の不快感や満足感といった感情の機微はAIには分かりにくい部分です。ですから、人間はそうした深いドメイン知識に基づいた深い分析を担当していくことになると思います。数字だけで語る部分はGeminiにお任せし、我々はより深い部分の分析に集中する。人間にはそうした役割が課せられると思います」(吉永氏)

データ分析で活躍し始めたAI。AIの導入を検討するプロセスで業務を効率化してくれるというメリットがある。

「実務へのAI導入のためには学習データを整備する必要があり、業務フローをAIに寄せるように変更を行うと先ほどお話ししました。この過程で業務自体の見直しを行うため、AI以前にそもそものやり方の変更だけで業務が効率化されることが多々あります。そもそもフォーマットを統一するだけで大幅に工数が削減できるということもありました。AIをキッカケとして業務内容の見直しを行うイメージです。」(吉永氏)

まとめ

データドリブンなゲーム運営にAIをフル活用する一方、それを支えるデータ分析基盤の構築や、現場とのコミュニケーション、意思決定に不可欠なメンバーのドメイン知識習得など、ソーシャルゲーム運営におけるデータサイエンスの「今」を語ってくれた吉永氏。オープンな講演内容に会場からは大きな拍手が湧き起こった。

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EDITOR / HIROKI TAKAHASHI

1982年生まれ、金融経済新聞社にて編集記者として記事執筆やラジオNIKKEIでのマーケットアドバイザー業務などを経験。その後、コンサルティングファームにて経験を積んだのちに独立。2023年、レアゾンホールディングスにジョイン。

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1982年生まれ、金融経済新聞社にて編集記者として記事執筆やラジオNIKKEIでのマーケットアドバイザー業務などを経験。その後、コンサルティングファームにて経験を積んだのちに独立。2023年、レアゾンホールディングスにジョイン。

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