WebXディスカッションレポート「日本のWeb3国家戦略 今後5年で進むべき道を徹底討論」
Web3を中長期的に見たとき、今後5年で日本は何をなすべきなのか。2023年7月25日、26日の両日に東京国際フォーラムで開催されたアジア最大級のWeb3カンファレンス「WebX」では、政産学のパネリストを招いて日本のWeb3国家戦略について議論が交わされました。 登壇者は各務貴仁氏(モデレーター/株式会社CoinPost代表取締役CEO)。渡辺創太氏(AsterNetworkファウンター)、伊藤穰一氏(デジタルガレージ取締役 共同創業者/千葉大学学長)、平将明氏(自民党Web3プロジェクトチーム座長)の各氏。Web3で先端を走る日本のビジョンについて語っていただきました。
Web3の持つポテンシャルとは?
日本が世界をリードできる可能性を秘めたWeb3の技術。このセッションでは、今後2年から5年、10年といった期間を見据えた可能性について各氏が意見を述べました。
冒頭、自民党でWeb3プロジェクトチームを率いる平氏が語ったのは「日本の価値の最大化」でした。
「現在、日本には観光やビジネスで多くの外国の方が訪れています。みなさんが口を揃えるのは日本は安いということ。いっぽうで日本人は長きに渡るデフレで良いものを安くという思想が叩き込まれています。そのため、気がつくと日本はいろいろなものが本来の価値よりも安い国になってしまいました。Web3の普及はこれをグローバル価格に引き直すいい機会になると思います。
例えば、NFTを活用すれば、もともと日本が持っているアナログのもの、伝統とか文化とかポップカルチャー、観光体験、食などをグローバル価格で販売することができます。また現在は生成AIの技術でメタバース空間が一気にリッチになっていく局面にありますし、日本のゲーム業界のノウハウが活用できるチャンスです。ここにトークンエコノミーがビルドインできれば、日本は価値を最大化できるだけでなく、得意な分野での経済圏を広げていくことができるはずです」(平氏)
海外を見ると、アメリカなどではクリプトウィンターとなり、Web3の動きは停滞しています。しかし、伊藤氏は「投機目的ではない、メインストリームとなるコンシューマー向けのインフラが日本でできればWeb3は普及する」と見ています。
「Web3は日本のように国がちゃんとサポートしていけば、この2、3年から5年以内に投機目的ではない普通のユースケースが出てくるはずです。そうなれば、現在、インターネットに関係のないビジネスが存在しないのと同じようにWeb3に関係のないビジネスもなくなっていきます。5年後にはほとんどのビジネスにWeb3が絡んでくると思います」(伊藤氏)
起業家である渡辺氏はオポチュニティとしてのWeb3に期待を寄せています。
「日本はWeb3では非常にいいポジションにいます。これから5年の間に日本発で世界を代表するGAFAのような企業やプロダクトをつくるということが日本にとってはたいへん重要です。そのためには官民の協力が欠かせません」(渡辺氏)
鍵となるのは大企業の動き
日本が狙うのは日本発のWeb3のプロダクトを世界に輸出していくこと。もちろん、そのためには資本のある大企業の参加が不可欠です。
「当然のことかもしれませんが、いまの日本のWeb3のスタートアップの人たちというのはWeb3ネイティブでかなりテッキーなことをしています。ただし、スタートアップですからエンドユーザーは持っていません。もしここに、例えばソニーのような数十億人単位でエンドユーザーを抱えているような大企業が加われば、Web3という領域で日本は間違いなくトップになれます。Web2までの日本は欧米が作ってきたルールをフォローするような形でしたけれど、Web3ではルールメイキングできる側になれると思います」(渡辺氏)
伊藤氏は、Web3の先端を切るのはゲーム業界ではないかと考えています。
「やはりジャンルでいうと技術的にもいちばんわかりやすいのがゲームです。おそらく、大手のゲーム会社でWeb3の研究をしていない会社はないと思います。日本のゲーム業界は技術力もコンテンツもあるし、時期がきたらひとつの大きな波になるのではないでしょうか」(伊藤氏)
Web3を広げるためのひとつの鍵がトークンエコノミーです。そこではステーブルコインが大きな役割を果たすことになります。
「トークンエコノミーの決済を考えたとき、暗号資産だけだと乱高下が激しすぎる。そこでステーブルコインが注目されているわけです。日本ではメガバンクもこのステーブルコインに向き合って真面目な経済圏をつくろうとしています。環境は整ってきていますから。あとはどういうふうにユースケースに結びつけるか。ここは民間の人たちのアイディアに期待したいところです」(平氏)
平氏は大企業の動きにも注目しているといいます。
「いままでとちょっと違うのは、動きが遅いというイメージのあった既存の大企業がWeb3に対しては前向きなところです」(平氏)
新たな付加価値が収益を生み出す
普及は確実なWeb3。企業にとって大きなテーマとなるのが利益をどう確保するかです。渡辺氏は「10年単位で考えるほうがいい」と話します。
「これから10年で日本から世界的なプラットフォームを作ることができて、そこにアプリケーションが整えば、収益はまわってきます。Googleのようなものが発想されたときなども、最初にあったのはビッグピクチャーであって、収益についてはそれほど考えてはいなかったはずです。というのも、インターネットを使っている人が100人しかいないような時代に収益の話などしてもどうしようもなかったからです。それよりもちゃんと世の中に貢献することの方が大切です。そうすれば収益は返ってきます」(渡辺氏)
「収益というものはそれが出そうなところにお金が流れていくので、Web3によってそれまでできなかったことができるようになれば、そこにガソリンがかかっていくはずです。いままでなかった価値を生み出すためにもクリエイティビティが必要とされると思います」(伊藤氏)
「繰り返しになりますが、日本が持っているアナログの価値をWeb3でグローバル価格に引き直していけば、そこから得られる収益というものも出てきます。わかりやすい例でいうと、外国人に人気のニセコのスキー場で、通常よりも15分早く乗れるリフト券をNFTで売ったら5,000円のものが9万円で売れたという事例があります。これがNFTでなければただ転売した人だけが儲かるだけだけど、NFTによるスマートコントラクトを入れることによってスキー場の事業者にもしっかりと利益が還元されました。Web3には、安すぎるといわれている日本のさまざまなものをグローバル価格に引き直して付加価値を生み出す力があります」(平氏)
課題は信頼性の確保
Web3の普及における重要なファクターのひとつがセキュリティ面での信頼性です。伊藤氏は「2022年11月のFTXの経営破綻でWeb3は信頼を失った」といいます。
「この信頼を取り戻すには信用できるWeb3ブランドをつくることです。そこで期待したいのが日本の大企業です。日本の大企業にはコンサバなイメージもあるけれど、信頼性は高い。そうした大企業が新しい技術を持つベンチャーと組むことで信頼できるWeb3ブランドをつくるといいでしょう。そしてもうひとつ、日本が注目されているのが金融庁です。FTX事件のとき、日本では金融庁の規制が機能して暗号資産業界を守ることができました。公的な保証があるというのは強いですし、なによりも信頼につながります」(伊藤氏)
「私は自民党でAIも担当しています。AIが進化すればするほどブロックチェーンのモニタリングができるようになり、マネーロンダリングなども防げるようになります。Web3はAIの進化とともにどんどんセキュアになっていくはずです」(平氏)
「ブロックチェーンというとトラストレスですが、トラストレスとトラステッドはたぶん両立するものだと思います。Web3のサービスはトラストレスなネットワークの上にトラステッドな人や企業が乗ってきて提供する、そんな新しい形になるのではないでしょうか。あとはUIやUXが改善してユーザビリティを高めて、日本発のサービスを国際的に発信していくことが重要です」(渡辺氏)
「Web3の世界では、何もことさらにブロックチェーンを意識する必要はなくて、前よりも便利になったよね、と感じたときに、実は裏でブロックチェーンが動いていましたという感じになると思います。これはレギュレーションでやることではなく、イノベーションが解決していくことになると思います」(平氏)
政官産学一体となってWeb3推進を
セッションの最後、モデレーターの各務氏が各パネリストに尋ねたのは、政府、アカデミア、民間企業、それぞれのポジションから描いたビジョンでした。
起業家である渡辺氏のビジョンは「5年以内に日本発のプロジェクトが世界の企業のトップ10やトップ5に入ることです」と明快です。目指すのは数兆円規模のビジネスです。
伊藤氏が気にかけているのは、日本がこのチャンスを生かすかどうか。現在のWeb3は政府を見てもベストのメンバーが揃っていますが、新しい技術だけに人材の層はけっして厚くはありません。民間企業もまた同様の状況にあります。この機運を逃さずに事業を進めることができるかどうか、それによって5年後の日本のポジションが決まります。
「日本人はみんながやっていないことをやるのは苦手です。しかし、Web3については、そこを恐れずに前に進めことが何よりも重要です」(伊藤氏)
日本のWeb3を推進するために政治家が果たす役割はなにか。平氏は「レギュレーションと税のデザイン、それに電力」と考えます。
「こうした産業は電力がないと始まりません。政治家としては、安定した電力をどう確保していくのか、2023年4月に決定したフュージョンエネルギー・イノベーション戦略のような開発戦略や、電力そのものだけでなく電力をそれほど使わない半導体の開発など、さまざまなことを考えていかなければなりません」(平氏)
まとめ
政府、学術、民間、Web3を推進する各界のパネリストの発言から感じられたのは、いまが日本にとって千載一遇のチャンスであるということ。FTX事件の衝撃がおさまらないアメリカや法規制が日本ほど進んでいないヨーロッパと比較し、すでに法整備や環境が整いつつあり、ゲームなどWeb3と親和性の高い産業や高度な技術を持つ日本はWeb3の領域において世界のトップを走っています。政官民が一体となり、Web3による新しい世界を発信していく。そんな日本になってほしいものです。